毎年8月16日京都の五山送り火
お盆だから実家に帰っていて
一度も見たことがなかった
大学生活最後の年だから
最後のチャンスになるかもしれないと思って
今年はみることにした
実は下宿先から東の大文字が見える
遠いけれど建物の間からちょうど顔をのぞかせている
結構レアな物件だと勝手に思っていた
午後8時ベランダからその東の大文字が
オレンジ色に燃えるその瞬間を見た
四年目にしてはじめての光景に少し感動した
送り火は
東西の大文字と妙と法、船形に鳥居形と計6つある
3年間一度も見たことがなくて
4年目にして初めて見た送り火を他に見たくなって
急いで自転車に飛び乗った
この大学生活のやり残したことを
取り返せるはずもないのに
とりかえせることが出来るような気がして
自転車を急いで走らせた
タイムリミットは1時間
外には送り火の見物人が道路に出ていた
とにかく北へ北へ
船形を見るために
堀川通りを進んでいった
北山大橋に着くと大勢の人が橋の上から
写真を撮っていた
山に燃える船形と川の水面に映る船形
二艘の船を写真に収めて
眺めることも早々に切り上げて
人混みをかき分けて
今度は東に自転車を走らせた
妙と法を見る時間があると踏み
今まで一度も通ったことない道を
わかりやすい道とざっくりとしたマインドマップ頼りに
真っ暗な道をずんずん進んでいった
京都市でも北のほうに行くと
碁盤の目の通りではなくなる
山が近くなって曲がった道に差し掛かった
それでも進もうとすると
急に目の前に広い池が出現した
賑わっていた人通りもなく
真っ暗な池が眼前に広がると
夢中だったはずなのに
なんだか急に怖くなった
道を間違えたみたいだ
少し引き返して
送り火がみえるスポットを改めて調べて
今度は正確なグーグルマップを頼りにして
人通りが多い場所に戻っていった
しかし人が多くても
お目当ての送り火がみえない
山の方を見ても何もない
曲がった道を通ったせいでバグった方向感覚を疑って360度見渡しても
どこにも見えないじゃないか
なんでだろう
改めてネットで確認すると
送り火は30分間の点灯らしい
自分が到着する10分前には消えていたらしい
1時間だと思っていたのに
リサーチ不足だったな
自分らしい
やり残したままだなと
気が抜けてしまった
全く知らない道をずんずんと進んで
結構遠くまで来てしまったみたいだった
夢中で進んだあの時間は
たしかに圧縮されていた
なにかが自分を突き動かしていた
それがなくなって
急に帰るのが面倒なってしまった
だらだらと漕いでいた帰り際
古びた商店街で路上ライブをしていた
ギャラリーも案外多かった
特に聞くつもりも全くなかったけど
信号に引っかかったから聞いていた
信号に引っかかっているうちに曲が終わって
客も引いていた
近くにいたおばさん2人組もそれぞれ帰路につくみたいだ
また一年後会いましょう
って言っていた
次会うのが一年後になるのに
まるで毎日一緒に登校している小学生みたいな
あっさりとしたお別れだった
なんだか不思議な気がした
想像しようとしたけれど
その時ちょうど降ってきた小雨が
気になって
その人たちは頭から離れていった
そんな小雨もすぐに止んで
だらだらと漕いでいた自転車も
見慣れた道へ帰ってきた
送り火を見るのに出ていた家族やカップルももういない
通りやすくなった道路を走って
下宿先へ着いた
自転車を止めて階段を登って
自分の部屋に着いた
カーテンを開けて
ベランダに出てみる
三年間みてきた景色となにも変わらない